意外と知らない天使とキューピッドの違い

弓を張るエロス

リシュッポス作「弓を張るエロース」.ローマの複製

絵画の題材に多く使われる天使やキューピッド
ですが、似たようなもので妖精や精霊なんかと
同じ様なものと思っている方も多いのではない
でしょうか。

実は彼らには、きちんと分類があって役割も違
うそうです。

今回は、僕自身もキューピッドの題材になって
天使とキューピッドの違いについて深く考えて
みたいと思います。

 

そもそも天使とは何か

天使というと、羽が生えていて弓矢を持ってい
るイメージを浮かべる人が多いのではないでし
ょうか。
いや、それはキューピッドだよ。と、言う人も
居ると思いますが、大方の人は両方とも似た様
な存在に感じていると思います。

後程キューピッドについては詳しく書いていき
ますが、天使のイメージは、弓矢はともかく、
背中に羽が生えていて幼い感じの可愛らしい印
象を持っているのではないでしょうか。

どちらにせよバレンタインデーのシンボル的な
イメージなのではないでしょうか。

では、まず「天使」について考察していきます。

 

天使には色々と種類があった

7大天使

荘厳な教会のステンドグラスに描かれているの
は、7大天使です。何人かは、聞いたことがあ
るのではないでしょうか。

有名どこは、ミカエル、ガブリエル、ラファエ
ル、ウリエル。そこに宗派によって違うのです
が3人追加して7大天使だそうです。

へぇ~天使にこんなに種類があったのか。
と、思う人も居るのではないでしょうか。
実は、もっとたくさん居るんですよ。
数十人・・・もっとかな。

四大天使

因みにこれが4大天使です。

どれを見ても、可愛い感じの天使とは、ちょっ
と違う感じですね。
むしろ威厳ある神に近いイメージ。

ここでは、キリスト教的ですが、ユダヤ教やイ
スラム教でも読み方が違って出てきます。
(ベースは共通ですから)

絵画なんかによく出てくるパヤパヤとその辺を
飛び回っている天使は、可愛いけど、宗教画で
は、凛々しい感じや怖い感じの天使も数多く描
かれています。

では、さらに深く見ていきましょう。

 

天使には階級があった

天使の階級

天使には九つの階級があって、私たちがよく知
っている「ミカエル」や「ガブリエル」は、8
番目。意外と下だったんですね。7大天使は、
全てここの階級に属しています。

絵画に脇役で飛んでいるのは、一番下の所のエ
ンジェルですね。

キューピッドは、このヒエラルキー(階級)の
中には含まれていませんし、聖霊でもありませ
ん。つまり天使の仲間じゃないんですね。

よくキリスト今日で「父と子と聖霊の・・・」
と聞くと思いますが、天使の階級で上位は、神
に近い天使で、下位の天使は、人間界と天界の
伝令的な天使という具合に別れています。

天使は神様ではない。

上位の天使は羽が6枚あって失礼ながらやや化
け物チックな感じだったりします。
でも神様ではありません。天使の所属する世界
では、神は一人のみ。

天使は、神のお手伝い役なんですね。

 

キューピッドは神様だった

天使的な物の分類

「いわゆる天使っぽいもの」を図式化してみま
した。精霊や妖精の仲間では羽の無い物もある
のですが、とりあえずパタパタしてそうな物を
大きく別けるとこうなります。

みなさんがよくキューピッドと言っているのは
ローマ神話のCupid「クピードー」です。
キューピッドは、クピードーの英語読みです。

さて、キューピッドは、どこに居るでしょうか
以外かもしれませんが、天使は神のパシリなん
ですが、キューピッドは、神様なんですね。

可愛い姿から、フェアリー(妖精)なんかもゴ
ッチャにイメージしそうですが、ちゃんと神の
世界の住人なんです。

元々は、ギリシャ神話の恋と性愛の神「エロー
ス」でギリシャ神話を踏襲しているローマ神話
に受け継がれています。

ということで、アブラハムの宗教(ユダヤ教、
キリスト教、イスラム教)に属する天使と、ギ
リシャ神話の神様の一柱であるキューピッドは
全く別な存在だと解ると思います。

蛇足ながら、妖精的なものにもギリシャ神話系
の神に近い精霊や、各地に土着している自然の
気から発生するものなど様々。
天使は聖霊。精霊じゃないですよ。

 

天使の羽のルーツはギリシャ神話だった

先述した天使には、皆羽が生えています。

ところが、彼らには元々は「羽」という概念が
無かったようです。

アブラハムの宗教は、様々な別な神話が融合し
た合作なので、ギリシャ神話も当然色濃く反映
しているようで、後々に描かれる天使達にも、
どれ羽でも生やしてみるか、とトッピングされ
たというのが真相の様です。

天使の羽が初めに登場するのは、4世紀後半で
すから、キリスト教が国教に認められたミラノ
勅令(313年)の後ですので、まだローマの
文化が色濃く残る時代に天使のイメージが作ら
れた様です。

 

バレンタインデーにキューピッドは関係無い

cupid

日本では1958年頃から流行したと言われる
バレンタインデー。そのシンボルと言えば、恋
のキューピッド。
(女性がチョコを配る風習は日本のものです)

聖バレンタインデーは、キリスト教系のイベン
トなんですが、そのルーツって意外と知られて
いませんよね。

時は2世紀頃のローマ。まだキリスト教が迫害
されていた頃です。
この頃の2月14日といえば、ローマ神話の結
婚の神「ユーノー」の祝日。その翌日は、若い
男女が年に一度楽しみにしていたルペルカリア
祭でした。

当時、若い男女は別々に暮らしていたのですが
祭りの日は、くじ引きの様なものでカップルを
決めて、そのまま恋に落ちたそうです。

時の皇帝クラウディス2世は、兵士が結婚をす
ると戦場での士気が落ちるという理由で、ルペ
ルカリア祭を中止。それだけでなく兵士の結婚
を禁止してしまいました。

そんな中、キリスト教の司祭(牧師?)ヴァレ
ンティウスは、密かに兵士の婚活をアシスタン
トして、それがばれて処刑されました。

このヴァレンティウスの殉教に、旧来の祭りを
掛け合わせたのが聖バレンタインデーです。

当時は、まだキリスト教が広く普及していなか
ったので、異教の祭りを様々な方法で吸収し別
なものに塗り替えて信者を獲得していました。

つまり、元々はローマ習慣だったユーノーの祝
日とルペルカリア祭を、殉教者ヴァレンティウ
スの日にしちゃったんですね。

あれっ、キューピッドは?

はい。ローマ神話の神様ですから、本来であれ
ば、キリスト教の聖なる日に出てくる筋合いじ
ゃないはずなんですけど不思議ですね。

もっとも、キューピッドがバレンタインデーに
出てきたのがいつころかは定かじゃないのです
が、比較的現代のような気もします。

ただ、もしあなたがキリスト教徒なら、キュー
ピッドは、天使じゃなくて異教の神様だという
ことは心に留めてくださいね。

 

キューピッドは元々青年だった

cupid

みなさんが、思い浮かべるキューピッドって、
だいたいこんな感じの幼児ですよね。

でも、元々ギリシャ神話の「エロース」がベー
スなので、本来は少年(または青年)です。

ここでちょっとエロースのお話を補足します。

「エロース」の父ちゃんは「アーレス」母ちゃ
んは有名な「アプロディーテー」です。

金の矢で射ると熱愛モード。鉛の矢だと嫌愛に
なるというのは知っていると思います。

エロースは、やんちゃなイメージで、矢を撃ち
まくっている姿をアポローンに笑われて、彼を
金の矢で、そしてたまたま近くにいたダプネー
を鉛の矢で撃ってしまいます。

アポローンは、ダプネーにメロメロ。追い掛け
回すのですが、ダプネーは逃げ回り、最後には
月桂樹の木に化けてしまうというお話。

ヘレニズム期になると、エロースの話しは、よ
り恋愛モードになっていきます。

ある日母ちゃんアプロディーテーからエロース
に指令がきます。
「人間界に超美人のプシューケーという生意気
な女が居るから鉛の矢を撃っておやり。」
母ちゃんは「美」の神様です。

エロースは、言われた通りにプシューケーを撃
ちに行きますが、成功せず代わりに金の矢で自
分を気づ付けてしまいました。
と、いうわけでエロースは、プシューケーに夢
中になってしまいます。

中略

しかし、神と人間は一緒にはなれません。
母は、プシューケーに無理難題を与えエロース
の恋心を諦めさせようとします。
でも、彼女はなんとか試練を乗り越えてしまい
ます。そして最後には、認めてもらい神の仲間
入りで目出度しめでたしという話し。

こんな風で、エロースは恋をつかさどる一方で
自分も恋に落ちる少年(青年)だというのが解
ると思います。

 

キューピッドは、なぜ幼く描かれるのか

もともとは、恋もする少年か青年だったエロー
スですが、ローマ神話では、幼さの残る少年的
イメージのクピードー(キューピッド)に変化
していきます。

ギリシャやローマの神話では、神の性別がはっ
きりしています。
エロースやクピードーは、男なので彫刻を見る
と可愛いけどちゃんとアレが付いています。
この当時は、芸術的にも性差の表現はノープロ
ブレムだったのでよかったのですが、やがてキ
リスト教が広まるにつれ「裸体はあかん」とい
う風潮になってきます。

そして「天使」には、性別が無いという考えか
ら、天使を表現する手法として、男だか女だか
わからない曖昧な表現をする様になります。
プラス、幼児で表現することで裸の印象を和ら
げたのではないでしょうか。

いつしか神話の世界もごちゃごちゃになり、エ
ロースも天使的なものに融合されます。

そして幼いエンジェルなんかとミックスして現
代の様なキューピッドが描かれるようになった
のだと思います。

 

キューピッドを中性的に描く意味

クピードー・絵画

キューピッドは、元々エロースで、アプロディ
ーテーが母であるくらいなので容姿端麗。
そしてギリシャ神話ですから、美少年はつきも
のです。多くの絵画を見ると、美しい姿に表現
されていることがわかります。

男性に妖艶な美しさを掛け合わせると、多くの
場合、中性的な雰囲気になります。筋肉美とは
また違う別のジャンルです。

今回僕は、キューピッドを題材に描いてもらい
ました。参考にしたのはブグローの有名なクピ
ードーです。

いかがでしょうか。羽で絶妙にアレを隠したお
かげで、元々中性的な印象が一層際立った感じ
に仕上がっています。

ただ、身体の表現はほぼオリジナル。そのまま
なので空想上のクピードーなのに妙にリアルな
感じがします。

こうして見ると、男性だとはっきりわかる表現
をするより、見る人に曖昧な印象を与えること
「この世のものではない」雰囲気を醸し出し
ている感じがします。

天使とキューピッドは、本来全く種族が違うの
ですが、性別が無い天使の概念を取り入れるこ
とと、中性的に描くことで、神っぽい雰囲気が
出るというのは面白い発見です。

 

まとめ

誰もが知っているキューピッド。

天使と混同している人も多いかと思いますが、
元々はギリシャ神話の神様だった。

身近な存在?だけに意外でした。

キューピッドは、長い年月を経て、様々な神話
や宗教がブレンドされ、作者の解釈のしかたで
色々な表現の作品が産み出されています。

その中で中性的な表現は、趣味だけじゃなく宗
教的な影響があったんですね。

自分の中性的な容姿も、芸術分野で宗教画的な
モチーフにもなれるという意外な発見に、改め
て中性的雰囲気を大事にしていこうと思いまし
た。

 

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